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キモヲタ☆ノーガード! #7

 8月10日、土曜日。
 2013年、夏コミ(夏季コミックマーケット)初日。
 今回は初日から1日動員記録を更新する21万人という異常
な数の参加者が詰めかけたことに加え、折からの猛暑によって
随所の待機列で温度は40度を超え、館内では湿度メーターが
振り切れ、参加者の流す夥しい汗が蒸散して館内雲が発生する
という、本来過酷な夏コミの中でも例年を超える厳しい環境に
倒れる参加者が続出する、まさに地獄絵図が展開されていた。
 それでもコミケ10年戦士の俺は、歓喜と矜持と夢と希望と
持ちうる限りの軍資金を胸に抱いて戦いを挑む。
 己の生き様、ありったけの思いをこの場所に捧げるために。
 …そんな戦場に、俺はマリサを誘った。俺の魂の故郷を彼女
に見て貰いたい、ただその思いだった。しかしいざ会場に来て
みると、俺の思いは少し揺らいだ。
 コミケは遊びではない。戦場だ。
 ただ見学に来ただけだとしても、無事生還出来る保障は何処
にも無い。むしろ、見学程度の覚悟で来るというのは危機意識
の面で余計に危険だったりもする。
 そう思いながら俺は朝に目当ての買い物を済ませ、午後1時
に国際展示場駅横のローソン入口付近で彼女の到着を待った。
 約束通り、マリサは来た。
 果たして彼女は、あまりの人の多さに圧倒されていた。
 「うわぁ、凄い人」
 「あの逆三角形の建物に入ったら、更に人は増えるよ」
 無理強いはするまい、という気持ちで俺は語った。
 「あの中は物凄くハードな環境なんだ。だから、怖かったら
無理しなくてもいいよ。怖くないなら、連れて行くけど」
 「…大丈夫だよ。怖くない」
 勇気のある娘だ。
 ならば俺は己の、10年戦士の誇りに掛けて彼女を最後まで
無事守り通そう。そう決めた。
 「ならば、先に伝えないといけないことが三つあるよ」
 …倒れないために。生き延びるために。
 「まず、喉が渇いた、と思ったときには手遅れだったりする
から、そうなる前にこまめに水分と電解質を摂ること。水より
スポーツドリンクの方が適している。水しか持ってきてない?
じゃあ、とりあえず1本俺のをあげるよ」
 「うん、ありがとう」
 「疲れたり、体調がおかしかったり、トイレ行きたかったり
したら、すぐ俺に言うこと。絶対に我慢しない。下手したら、
トイレが最大手だったりするからね。俺なら比較的空いている
場所を探すことも出来るけど、移動にも時間が結構掛かるし、
コミケってのは予測不能だから、本来空いているはずと思って
行ってみたら混んでいた、というのもあり得るから」
 「わかった」
 「最後に。絶対に俺の傍を離れるな。最近は結構状況が改善
されてきているけど、それでも電話が繋がらない可能性が結構
高いから、迷子になったら再会出来ない可能性もあるよ」
 「ずっと、リュックの後ろを握ってる」
 「OK、解った。それじゃあ、行こう」
 こうして、マリサのコミケ見学が始まった。
 まず、俺たちは東館へ向かった。
 この日の東館は、BLサークルの比率が圧倒的に高かった。
 「BL大本営だね」
 マリサは少し困った顔で言った。
 ポケマン同士が絡む18禁本を見たときなど「やだー、夢を
壊さないで!」と嫌がる素振りを見せた。
 だが、心の底から嫌悪感を見せるような様子は無く、彼女は
彼女なりに通常接することの出来ない文化に触れ、むしろ興味
津々で、楽しんでいるような表情を見せたりもしていた。
 続いて、直通近道を通って東館から西館へ。
 ここもBLばかりだったが、俺の好きな指輪物部系サークル
も点在していて、買い忘れた本を1点拾いに行ったりもした。
 「でもね。指輪物部ジャンルでもBL本結構あるんだ」
 「そうなの?」
 「じいさん同士が絡んだりして」
 「うわぁ、BLって本当に範囲が広いんだね…」
 …あれ?
 どうして俺は、まるでBLを推しているかのような話し方を
しているのだろう。腐女子になって欲しいのか?まさか。
 ただ、マリサの笑う顔や声が可愛くて、それをずっと見たり
聴いたりしていたかったから、普段触れないような文化を面白
おかしく紹介しようと躍起になっていたのかも知れない。
 西館から、裏の駐車場へ。
 コスプレ広場だ。
 彼女はコスプレに興味があるようで、素直に「かっこいい」
だとか「露出激しくてエロい」などの感想を述べていた。
 そして、企業へ。途中の階段は、まさに炎天下。
 ここまでの時点で既にかなり体力を使っていたのか、彼女は
しんどそうに階段を登っていた。すっかり赤くなり、汗で艶の
増した頬が色っぽい。
 …色っぽい。三次元の女に対してそういう思いを抱くのは、
もしかしたら初めてかも知れない。
 「…可愛いなぁ」
 思わず俺は日本語で、溜息交じりに呟いた。
 意味を理解したのか、彼女ははにかんだ表情を見せた。
 そして企業ブース。
 彼女は二次元の女子レスラーがベアハッグを喰らっている図
の抱き枕カバーを指さして、聞いてきた。
 「お兄ちゃんも、エッチな抱き枕カバー持ってるの?」
 またも、ヲタである俺に対するガチのゼロ距離射撃だ。
 …どう答えたらいいんだ。誤魔化すか、正直に言うか。
 某アイドルプロデュースゲームの、ラストライブ当日に表示
される選択肢画面が脳裏に浮かんだ。結局どちらを選んでも、
最終的には正直に伝えることになってしまう。
 そうさ、そもそも俺はガードを全部解いているんだ。一体、
何を恐れると言うのか。選択肢など、もともと無いのだ。
 「ああ、持ってるよ」
 正直一択、俺は努めて飄然と答えた。
 マリサは一瞬真顔で俺を見たが、すぐに目を逸らした。
 「えー、いくつ持ってるの?」
 …いくつ、だと?
 俺の二次元嫁は「あずさ」一択である。他には、無い!
 「俺の一番好きなキャラクターだけ、だよ」
 「ふーん」
 なんとも微妙な顔つきで、彼女は他の事に注意を向けようと
する素振りを見せた。果たして、その胸中に去来する思いは、
一体何なのだろう。
 「あはは、あれおかしい!胸とか紙で隠してるよ」
 彼女が話題逸らしに指さしたのは、エロタペストリー。乳首
や股間にテープで紙きれが貼ってあり、涙ぐましい露出防止の
試みとして、辛うじて役割を果たしていた。
 「まぁ、会場には未成年も来るからねー」
 そうこうしてるうちに企業ブースを離れ、館内一周達成した
ということで、外へ出た。その後大道芸人のパフォーマンスに
暫し見入って、最後の企業ブースである駅前ローソンの様子を
一瞬眺めて、彼女のコミケ見学は終わりを告げた。幸い、彼女
は気分が悪くなることもなく、五体満足の状態で魔女の大釜を
無事脱出出来たのだった。
 テニスの森まで歩いて、豊洲経由の帰路。
 「ね、お兄ちゃん」
 「何?」
 「私長女だったから、ずっとお兄ちゃんが欲しかったんだ」
 彼女は少し上目遣いで、そう語った。
 「…そうなんだ。兄として見てくれるなら、嬉しいね」
 コミケを共に戦ったことで、俺の中で彼女に対する親近感は
確実に増していた。そのため、どのような形にせよ好意を寄せ
られていると認識するに足る言葉を受け止めるのは、大変光栄
な事に思えた。
 その後、俺達の会話は家に着くまで止むことは無かった。
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