<< March 2024 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>
<< 8/15-17 中野での日常 | main | 8/18 久々の300万 >>

キモヲタ☆ノーガード! #8

 8月11日、日曜日。
 段々互いについての理解度が深まって行くにつれて、自然と
コミュニケーションのチャンネルも増えていく。
 マリサは過去にアメリカで生活している。そのため、英語を
聞き取る能力に優れていた。英語で喋ることに関しては苦手に
思っている部分があるため、最初のうちは「所詮、ネイティブ
じゃないから」と甘く見ていたのだが、そのリスニング能力は
俺の想像を超えていて、最終的に俺は自分本来の英語力を遠慮
なく全解放して彼女との会話を楽しむようになっていた。
 彼女が中国語で喋り、俺が中国語交じりの英語で返す。その
中に微量の日本語が混ざって行く。
 こういう多言語同時コミュニケーションは、大好きだ。
 彼女とは過去も文化背景も興味も世代も違うが、それでも、
意外と多くの共通点を見出すことが出来た。
 方向音痴。親の干渉が少し過剰。小さい頃に異性からイジメ
られていた。霊感が強い。色々他にやりたいことがあるのに、
それらを一時我慢して今やるべきことに当たらざるを得ない、
そんなところも一緒だ。
 こうして知れば知るほど、互いの距離が縮まって行くような
感覚を覚えた。もはや、俺も彼女を家族として認識することに
何の抵抗も無いのだと実感するようになった。
 その日の晩。
 寝る前、俺達は電子メッセージを投げ合っていた。
 彼女は臨床心理士を目指せる大学院が設置されている首都圏
の大学のランク付けを聞いてきたので、独断と偏見の混じった
自称「一般論」を俺は説明した。
 国立ならT大、OC大。私立ならW大、J大、あるいは所謂
MARCHの面々などなど。残念ながら俺の愛するK大は条件
に合うような大学院を持たない。
 マリサは臨床心理士を目指していた。台湾で心理系の学部を
卒業し、資格を取るため日本の大学院を目指して留学生として
来ていたのだ。
 どうして台湾国内でなく外国で資格を取得しようとしている
のかは俺には解らないが、その多難たる茨の道が確定している
前途を知りつつ敢えて挑戦しようとする覚悟や度胸に対し俺は
尊敬の念を抱いていた。
 10歳以上も年下なのに、未だ駄々っ子である俺なんかより
余程立派でしっかりしているのだなぁと、素直にそう思った。
 暫くメッセージを交し合った後に、俺は最後にひとつ彼女に
謝らなければならないと思った。
 俺は当初、臨床心理士という職業に関して全く無知だった。
 例えば他の医療系専門職みたいに、専門学校を出て資格試験
に通れば良いものだと思っていたので、どうして彼女が大学院
を目指しているのかが解らなかった。それだけ俺が他の医療職
に無関心だったとも言える。そこで、日本では大学院まで行く
必要が無いかも知れないと俺は少し前に伝えてしまっていた。
 即ち、嘘を付いたことになる。
 その後調べていく内に自分の間違いに気付き、申し訳ないと
思うと同時に、恥ずかしかった。
 だが、間違いを認めず誤解を与えたままで良い道理は無い。
 ちゃんと謝って、本当のことを伝えなければならない。
 そこで俺は英語と中国語混じりの文章で、こう書いた。
 「寝る前に、君に謝りたい。さっき、他の職業に対する認識
不足で一つ間違ったことを言ってしまった。臨床心理士となる
には、確かに大学院課程を修了する必要があったんだ。日本語
を勉強した上で、大学院まで出なくてはならない、そんな長く
険しい道のりが君を待っているだなんて、心が痛む。もし君が
構わないのなら、今俺に出来ることは極めて限られているけれ
ども、君の手伝いをさせて頂きたいと俺は思っている。可愛い
従妹よ、俺は君の勇気を本当に素晴らしいと思う。おやすみ」
 暫くして、予想外の反応が返って来た。
 「お休み〜こんなに私の助けになってくれてありがとう〜。
お兄ちゃんが一番好きだよ〜〜〜」
 続いて。
 「あなたとお喋りするのが一番好きだよ。お兄ちゃん、明日
も頑張ってね!えへへ」
 最後に。
 「もうとっくに、苦労する覚悟は出来てるよ。私は大丈夫。
本当にありがとう」
 そして。
 くまのPUさんとPIGレットが抱き合うスタンプ。
 襲い来る眠気の中で、俺は暫く一連の返信をぼんやりと何度
も繰り返し繰り返し眺め続けていた。
 そうしているうちに、突然、俺は息を呑んで目を見開いた。
 彼女の存在が、俺の心の中で瞬時に膨張した。
 久しく感じていなかった心裡の違和感に、俺は打ち震えた。
 これは、この気持ちは、そういうことなのか。
 …俺は。
 完全に、惚れていた。
チャンプ(−O−) * キモヲタ☆ノーガード! * 16:46 * comments(0) * trackbacks(0)

コメント

コメントする









トラックバック

このページの先頭へ