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キモヲタ☆ノーガード! #10

 8月13日、火曜日。
 マリサと出逢ってから、10日目の朝。
 両親とも早々と出かけていて、俺は家で彼女と二人っきり。
 そんな朝だった。
 目が覚めると、俺はこんなメッセージを送った。
 「おはよう。一緒に朝ごはん食べよ?」
 ほどなくして、俺達は向かい合って朝食を摂っていた。
 キュウリとトマトとチーズを載せたパンに、ブルーベリーを
何粒か入れたヨーグルト、野菜ジュース、そして、牛乳。
 ごくごく普通の朝食。
 俺はパン食が苦手だ。味や食感が嫌いというわけではなく、
腹が膨れる気が全くしてこない物足りなさ、お菓子同然の感覚
が嫌だった。
 だが、彼女と食べていると、これはこれで乙なものだ。
 そう思える俺がいた。
 気が付けば、ゆっくりと咀嚼しながら俺はずっと彼女の顔を
見つめていた。そして、俺は笑顔だった。
 「何?そんなじろじろ…何見てるの?」
 そう言いつつも、彼女は嫌がる素振りを見せなかった。
 「可愛い」
 素直な感想だった。
 「えー」
 流された気がした。
 それから、とりとめのない会話が続いた。
 会話はいつしか、恋愛や結婚についての話に発展していた。
 「私ね。結婚に恐怖感があるの。それに、男の子に幻滅して
いたりするんだ」
 「どうして?」
 「過去に裏切られたり、嫌がらせを受けたり、色々あって」
 「なんだか俺達、この部分も似ているかも知れないね」
 「そうなの?」
 「俺も結婚に対してあまり良いイメージを持っていないよ。
上手く行ってない夫婦を沢山見すぎているというか。女の子に
幻滅しているのも一緒かな。俺も昔、色々とね。小さい頃から
女の子にイジメられたり、騙されたり。だから一時期、本当に
女の子が怖かったんだ」
 ちょっと待て。俺は何を言っているんだ。
 「あはは、本当に私達、似ているね。じゃあ、お兄ちゃん、
恋愛したことないの?」
 「ああ。34年間、ずっと。一時期なんて女の子を見ると、
頭にツノ生えてるのが見えたり、顔が動物に見えたり、オーラ
が真っ黒に見えたり、本当に酷い状況だった。今大学で女の子
と普通に会話が出来てるってのは、正直自分でもびっくりする
ほどの改善だと思うよ。だけど誰かと付き合うとなうと、正直
まだまだ抵抗があるな」
 だから、俺は何を言っているんだ。これじゃあまるで、俺は
誰とも付き合いたくないから俺に近付くなって言っているのと
同じようなものじゃないか。俺はマリサのことが好きなのに。
 「…そっか」
 軽く落胆したような表情。
 …ん?どうして、そんな表情なんだ?彼女は今、何を思って
いるのだろうか?
 兎に角、言葉を続けないといけない。
 そんな気がした。
 「…だからね。最初、俺の部屋に女の子が住み込むと聞いた
とき、正直どう接したら良いのか凄く戸惑ったんだ」
 「そうだよね。なんだか、その、ごめんね」
 「ううん、違うんだ。どう言ったら良いのか…最初会う前は
確かに戸惑っていた。でも実際会ったとき、初対面の女の子に
感じるような圧迫感、恐怖感は、全く無かったんだ。自然と、
仲良くなれるなって思ったんだ」
 「良かった。私も最初会ったとき、悪い印象は無かったよ」
 「それでね、君と一緒に居る時間が長くなるにつれて、本当
の従妹みたいに思えてきたんだ」
 違う。従妹じゃあ、ダメなんだよ。
 「嬉しい。私も、ホントのお兄ちゃんみたいに思ってるよ」
 だから、それじゃあダメなんだよ。
 「ありがとう。でもね」
 俺は一呼吸置いた。
 「君のことを知れば知るほど、一人で日本に勉強のため来て
いるんだという大変な状況、それに対する立派な姿勢、とても
尊敬出来る人間なんだなって思えるようになってきたんだよ」
 尊敬?いや、それだけじゃないだろう。
 「え?そんな大層なものじゃないよ。私は、やるべきことを
やろうとしているだけだし」
 「中々そう割り切れるものじゃないよ。君は、凄いよ。もし
俺だったら、そんな勇気出せないと思う」
 待て。そういう卑屈なことを言うのが目的じゃないだろう。
 「君は立派だよ。長く苦しい道のりと知りつつも、恐れずに
挑もうとしているんだから。そして俺は、そんな従妹の助けに
なれればいいなと思っているんだ」
 届いてくれ、俺の気持ち。
 「…ありがとう。お兄ちゃんに会えて良かった」
 「俺も、君に会えて良かったと思っているんだよ。君は俺に
勇気をくれるんだ」
 気付いてくれ、俺の気持ち。
 「え?どうして?」
 「君はもう、俺に取って特別な存在だからだよ」
 「どういうこと?」
 「君は、他の女の子とは違う。今まで俺は、現実の女の子を
綺麗だと思ったことは無かった。でも君は、とっても綺麗だと
思うんだ。それに、本当に、可愛い。今まで34年間生きて、
君のような素敵な人に出逢ったことは無いんだ。俺、今まで、
誰かに対してこんな気持ちになったこと無いんだ。本当だよ。
だからね、マリサ。俺、さ」
 受け取ってくれ、俺の気持ち。
 「好きだよ」
 俺は、最後は日本語で言った。
 その瞬間、マリサは目を見開いて、息を呑んだ。
 俺が言ってることを正しく理解したのだろうか。
 自信が無かった。 
 だから、俺は彼女の目を真正面から見据えて、ゆっくりと、
噛み締めるように、もう一度言った。
 「君が、好きだ」
 俺は、笑顔だった。
 彼女は両手で顔を覆うと、左右に首を振った。
 しかし、彼女も笑顔だった。
 「え、あ、う」
 どう反応したら解らないような、そんな素振り。
 俺は頷いて、再び言った。
 「好きだよ」 
 後は、ずっと笑顔で彼女を見つめていた。
 暫くして、彼女は「なんだか、凄く照れちゃうよぅ…」と、
消え入るような声で漏らした。そして、机に顔を埋めるような
態勢で完全に固まってしまった。
 俺は立ち上がり、ソファーに彼女を誘った。
 マリサは応じた。
 ゆっくり歩み寄って、俺の隣に腰を下ろす。
 どちらからともなく、肩を寄せ合っていた。
 俺は彼女の肩を抱き寄せた。
 「嫌?」
 「そんなことないよ」
 小さな声だが、マリサはハッキリと言った。
 「私も、お兄ちゃんのこと…好き」
 俺はまっすぐ彼女の瞳を覗き込んだ。
 今度は、彼女もまっすぐ俺を見つめていた。
 恥ずかしがらず、はぐらかさず。
 視線が絡み合う。
 そのまま、とても長い時間が過ぎたような気がした。
 その時、相手を愛しく思う気持ちが俺の中で一気に弾けた。
 俺には、もはや何の迷いも無かった。
 「ねぇ」
 「ん?」
 軽く息を吸って、想いを告げた。
 「キスしていい?」
 相手は一瞬、目を細めた。
 次の瞬間、目を閉じて顎を少し突き出した。
 唇が、重なる。
 離れて、そして、もう一回。
 マリサと出逢ってから、10日目の朝。
 僅か10日間。
 しかし、ノーガードの10日間。
 自分を包み隠さず曝け出して、結果を恐れずに伝え続けた、
そんな不思議な10日間の果てに。
 俺達は、恋人同士となった。
チャンプ(−O−) * キモヲタ☆ノーガード! * 23:10 * comments(4) * trackbacks(0)

コメント

>みらいさん
わーい♪ ハッピーエンドですよぅ♪
Comment by チャンプ(−O−) @ 2013/08/25 2:38 AM
\(^O^)/やったー!
ハッピーエンドやー!!!
Comment by みらい @ 2013/08/25 2:29 AM
>サムスどの
SUMS殿とは違う、もう一人と思いまするが、、、w
えと、ありがとうございま・・・す?www
Comment by チャンプ(−O−) @ 2013/08/25 2:16 AM
!?
男らしすぎて惚れた!
おめでとう!!
Comment by サムス @ 2013/08/24 11:44 PM
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