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キモヲタ☆ノーガード! #12

 8月24日、土曜日。
 俺がマリサに告白してから、12日間が過ぎた。
 僅か、2週間足らず。
 即ち、出逢ってから22日間。
 一ヶ月にも満たない短い期間。
 出逢い、惹かれ、思いを告げ、深く愛し合うようになった。
 全てが想像を超える速度で進み、過ぎて行った。
 この日、俺達は東京駅、新幹線ホーム上に居た。
 即ちこの日は、俺が、滋賀へ赴く日。
 二人が離れ離れになってしまう日だ。
 出逢い、惹かれ、思いを告げ、深く愛し合い、互いの想いが
最高潮に達したまま遠距離恋愛へと移行する日だ。
 なんという、非現実的(アンリアル)な関係か。
 愛別離苦。なるほど、これはとても辛いものだ。
 胸が締め付けられるような苦しい思いに駆られ、俺は思わず
涙がこぼれそうになった。
 乗車口付近の階段で、マリサは「お兄ちゃん、泣かないで」
と言いながら俺の頭をそっと胸に抱き寄せた。
 しかし彼女の顔も、今にも崩れそうだった。
 「…ああ…解ったよ。俺、精一杯頑張るからな」
 そう言うと、マリサは笑顔で「うん」と小さく頷いた。
 そして、見つめ合ったまま短い沈黙が続た。
 その間、数多の思い出が鮮明なイメージと共に一気に脳裡に
流れ込んで来る感覚に俺は呑まれていたのだった。
 例えば、その1。
 あるとき、二人で歩きながら互いの家庭について語っていた
流れで、ふとマリサが「私はお姫様じゃ無いのよ」と言った。
彼女の両親は厳しくて、過保護気味であると。
 俺はそのとき、何も考えず「でも、君は俺のお姫様だ」と、
耳元で甘噛みを交えながらささやくように英語で語りかけた。
 彼女は俺に向き直り、真顔で「私…溶けちゃう」と言った。
 その表情が、たまらなく可愛かった。
 例えば、その2。
 あるとき、マリサはキモヲタである俺に二次元についてどう
思っているのか尋ねていた。
 俺は「ずっと変わらないままでいるのが二次元の魅力だよ。
それに対し、三次元の魅力は変化したり成長したりするところ
だと思う。今まで心の傷から三次元を避けてきたけど、ずっと
持論としては思って来たんだ。二次元と三次元は、例えば絵画
と音楽のように、互いに比べられないもの、混同するのは凄く
おかしい、そんな関係だと。それぞれの魅力は全く違うから」
 するとマリサは「うん…中々健全な考え方じゃない?」と、
安心したような笑顔を向けて来た。
 ああ、この娘は理解があるんだなと、俺は安堵した。
 例えば、その3。
 あるとき、マリサは本棚に刺さっていた黒髪ロング萌えの本
を取り出して、俺に尋ねた。
 「お兄ちゃん、ロングが好きなの?」
 「ああ、そうだ」
 俺は脊髄反射で即座に回答した。
 「ふーん、私もちょっと前まで髪長かったんだけど…残念。
でもなんで、ロングが好きなの?」
 「アジア人女性がその身体で表現出来る、最高の美だと俺は
心の底から思っているからだ。幼少期より、俺は黒髪ロングに
尋常ならぬ執着を持っていたんだ」
 これも、思考時間ゼロでの回答だった。我ながら全く以って
キモヲタらしい反応である。
 マリサはにこりと笑って、俺の想いを受け止めた。
 「じゃあ、また伸ばそうか。喜んでくれるかな?」
 俺は、これまた超反応でブンブンと首を上下に振った。
 「そうしてくれたら、多分俺の理性が吹っ飛ぶよ」
 「じゃあ、やらない方がいい?」
 「逆。是非お願いします。俺の理性を吹っ飛ばして下さい」
 マリサは愉快そうに笑いながら「わかった」と言った。
 例えば、その4。
 マリサは、ベタベタするのが好きである。ことあるごとに、
何かと俺の身体を触ってくるのだ。
 スキンシップを好むのは、俺とて同じである。
 よく外出先でもベタベタするカップルがネット上で怨嗟の念
を向けられるのを目にするが、いざ自分がそうなってみると、
頭で解っていても中々理性が追い付いて来ない。
 アキバに出かけた時など、街中で手を繋ぐのは控えようよと
伝えても、手が触れると自然と握ってしまうし、握り返されて
しまうし、更には腕にしがみつかれたりするものである。
 そんな触れ合いたい盛りの俺達の間に、いかにもバカップル
らしい、このような会話があった。
 あるとき、彼女は俺の筋肉豊かな胸に顔を埋めていた。
 戯れに、俺は自慢の大胸筋をぴくぴくと動かしてみた。
 すると、彼女はケタケタと笑い始めた。
 どうやら、ツボに入ったらしい。
 むせて咳き込むほどの大笑いは、暫く止むことなく続いた。
 そうしている内に、彼女は唐突に告白した。
 「私ね、マッチョな男性が好きなのよ」
 「光栄だね。女の子というのは、どちらかというと痩せ形を
好むものとばかり思っていたんだけれど」
 「あー、それは解ってない子ね」
 「…滋賀に戻ったら、精々もっと鍛えてご期待に添えるよう
頑張るとするよー」
 「うん、期待してるよ」
 例えば、その5。
 彼女には、前カレが居た。しかし親の猛反対に遭い、親思い
だった彼女は泣く泣く別れることにした。
 あるとき、彼女はためらいながらもその事実を俺に告げた。
 「こういうのを気にする男の人もいると思うから、正直言う
べきかどうか凄く迷ったんだけど…でも、お兄ちゃんには全部
話した方が良いかなと思ったんだ」
 俺は、めぞん一刻を青春時代に読んでいる人間である。
 五代は惣一郎ごと響子さんを愛することが出来たのだ。
 当時それを読んで「これぞ漢気ってモンだ!」と膝を叩いた
記憶が蘇った。そして、心の中で俺は自分に驚いていた。
 全く以って、嫌な気がしなかったのだ。
 その過去ごと、俺は今の彼女が心底好きになれるのだなと、
むしろそんな自分に気付くことが出来たことを感謝していた。
 だから、俺は笑顔で思いを伝えることが出来た。
 「ありがとう、教えてくれて。それだけ信頼されているのは
凄く嬉しいよ。こういうのは俺に取って初めての経験だから、
全く気にしないと言えば嘘になるかも知れない。でも、正直、
今はむしろ前のカレさんに感謝したい気持ちなんだよね」
 「え?どうして」
 「そのカレと一緒に過ごした時間も、間違いなく君の一部。
俺の大好きな君の一部だからさ。だから、受け入れられるよ。
君が言いにくいならこれ以上何も言わなくてもいいし、こっち
から尋ねるようなことはしないよ。でも、別に以前のカレとの
出来事を色々教えてくれても、俺としては全く構わない。後は
君自身がその過去とどう向き合うか、その傷とどう付き合って
いくのかだと思う。自分のペースで、ゆっくり癒して欲しい。
俺は大丈夫だから」
 それを聞くと、マリサは涙を流しながら前カレとの思い出の
写真を1枚ずつ、俺の目の前で削除し始めた。
 「別に消さなくても良いのに。俺に気を使う必要はないよ」
 「いいの。これはケジメだから。今の私には、あなただけ」
 そう言って、彼女は時折表示された写真がどんなときに撮ら
れたものかを説明しながら、ゆっくり、しかし着実に思い出を
置き去って行った。
 彼女なりの、俺に対する誠意、気持ちの表れを、俺は最後の
1枚が消えるまで、ただただ眺め続けていた。
 例えば、その6。
 いよいよ滋賀に戻る日が近付くにつれて、彼女はカラオケに
行きたいと何度もせがむようになった。
 俺が歌うのを聞くのが好きだと、言ってくれた。
 俺も彼女の声は大好きだった。
 そして彼女は俺に贈りたい曲があると言って来たのだ。
 しかし、今までカラオケに頻繁に行くような子ではなかった
ので、歌い慣れてはいない。そこで彼女はネットでその想いを
込めた曲を探し、何度も聞きながら練習していた。
 それは、台湾語の「家後」という歌だった。
 内容は、若い女の子が旦那に嫁ぎ、一生旦那を大切にして、
旦那が年寄りになっても寄り添って死ぬまで一緒に生きて行く
という、重いラブソングだった。
 一般に「重たい女は面倒臭い」と言われる。
 だが俺はそうは思わなかった。
 ここまで俺のことを想ってくれているのか。
 重い、ではなく、想い。
 純粋に嬉しかった。
 俺が最後の病院採用試験を終えたその日、ようやくカラオケ
に行くこととなった。
 しかし、その曲は、日本のカラオケには入っていなかった。
 彼女は残念そうな表情だった。
 俺が彼女のためにと選んだ曲は、ヴァネッサ・カールトンの
サウザンド・マイル。
 「君が必要だ。君に逢いたい。解っているよね、君の為なら
1000マイルの道でも歩いていくよ。今夜君に逢えるなら。
君を抱きしめられるなら」
 このときの、彼女の微笑みは格別に可愛かった。
 そして、帰路。
 彼女はそっと、俺の隣で「家後」を歌っていた。
 例えば、その7。
 別れの日。
 荷造りを、彼女は手伝ってくれた。その間ずっと、明らかに
悲しそうな表情を浮かべていた。
 当然、俺も同じだった。
 すると彼女はおもむろに俺の携帯を取り上げた。
 何をするのか、と思う間もなく、彼女は自分の写真を大量に
撮り始めた。
 様々な表情の写真。様々なポーズの写真。
 俺の傍まで来て、顔をくっつけての写真。
 果てには、互いに頬にキスする写真まで撮った。
 最後の日、最後の瞬間まで、彼女はとても可愛らしかった。
 出逢ってから僅か22日間、しかし、彼女との思い出は数え
切きれないほど出来ていた。全部仔細に書こうとすると永遠に
掛かるので、以上7つのエピソードを以ってひとまず終える。
 こうした数多の思い出、万感の想いが、別れの際に、とめど
なく俺の脳裡に蘇って来ていた。
 それは彼女も同じだったのかも知れない。後に、彼女も涙が
こぼれそうになるのを堪えていたのだと教わった。
 しかし、時間はあくまでも冷徹に過ぎ去って行くのだった。
 別れ際の、最後のキス。
 出発寸前の一瞬の光陰を争う、短い短いキスだった。
 そして俺は新幹線の車両に脚を踏み入れたのだった。
 それでも未練がましく、荷物を座席に置くと入口まで行き、
再び彼女と最後の瞬間、ドアが閉じるまで見つめ合っていた。
 手を触れ合った。
 そして、ベルが鳴った。
 ドアが閉じ、遂に、新幹線が走り出した。
 出逢い、惹かれ、思いを告げ、深く愛し合い、互いの想いが
最高潮に達したまま遠距離恋愛へと移行したのだ。
 今後俺達がどうなって行くのか、現時点ではまだ解らない。
 遠距離恋愛は成就し難いと言われている。
 この先、障害は多いのかも知れない。
 それでも、俺は彼女に感謝したいと思う。
 今まで恋愛を忌避し、全力で逃げてきた。
 怖かった。恐ろしかった。嫌だった。
 全ての恋愛が悪い結末を迎えるわけではないと頭で理解して
いても、心がそれを受け入れられなかった。
 そんな俺の心を、彼女は溶かしてくれた。
 だから俺は、彼女を大切にしたい。この関係が続き、幸せな
未来を勝ち取ることが出来る、そんな可能性に俺は縋りたい。
 この恋愛が良い結末を迎えるのか、悪い結末を迎えるのか。
 ある程度は、俺達次第で状況を変えていけるのではないかと
今は思いたい。
 俺達の物語はこれからも続いて行く。だが、一つの区切りと
いうことで、ここで筆を置こう。
 これは一人のキモヲタが一人の女の子と非現実的で衝撃的な
出逢いを果たし、ありのままの自分を包み隠さずゼロ距離から
ぶつけた顛末を描いた、実際の物語である。

              キモヲタ☆ノーガード/本文了
                   (次回、あとがき)

マリサちゃんイメージ図
マリサちゃんイメージ図(本人了承済み)
チャンプ(−O−) * キモヲタ☆ノーガード! * 12:31 * comments(6) * trackbacks(0)

コメント

>みらいさん
>日本語って、世界で一番難しい言語だと聞いたことが。
>同じ言葉で意味が色々あって全て適切に使いこなすのは
>難しいんだってね。
会話する「だけ」なら、日本語を習うのは比較的速い。
でも、それは表面的なものだけなんですよね。だけど、
お互いの「想い」を伝えたり受け止めたりするレベルを
目指すとなると、日本語ほど難しい言語も無いと思う。

だから、日本ってKYな奴によく出会うけど、それ実は
相手が本当にKYってわけじゃなくて、日本語の難度に
理解力が追い付いてないだけって可能性もあるんだと、
俺は思うんだなー。

>それにしてもノロケてるwwwwww(草不可避)
スマンwwwwwww

>遠距離は連絡を欠かさないのが一番、
うぃす、肝に銘じます。毎日連絡取ってるですw

>文字だけより視覚、聴覚による連絡がなおよし。と
今はビデオチャットで姿見ながら話してるんだおー♪
あ、これまたノロケじゃねーか。
Comment by チャンプ(−O−) @ 2013/09/03 1:34 PM
日本語って、世界で一番難しい言語だと聞いたことが。。同じ言葉で意味が色々あって全て適切に使いこなすのは難しいんだってね。

それにしてもノロケてるwwwwww(草不可避)

遠距離は連絡を欠かさないのが一番、会いたい時に会えないから。文字だけより視覚、聴覚による連絡がなおよし。と
Comment by みらい @ 2013/09/03 3:12 AM
>関口さん
気にって頂けているようで光栄ッス☆

そう、これだから日本語って大好きなんですよね。
本来たおやかで、なおかつ深みのある言語だと思います。
Comment by チャンプ(−O−) @ 2013/09/01 7:04 PM
やばい、ニヤニヤが止まらないww
『重い』と『想い』、言葉遊びでもあり、意味合いでも似通った部分もあり。日本語すげぇ!
Comment by 関口 @ 2013/09/01 7:44 AM
>阿久津くん
阿久津くんも元気そうでなによりですよ!

…そうだねぇ、いざ説明しようとすると難しいかもですね。
まぁ、全くの別モノ、と言っておけば大丈夫なのでは☆
Comment by チャンプ(−O−) @ 2013/09/01 2:58 AM
先々週プラボ中野店でチャンプさんにあったけど話ができなかったけど元気そうだったね
アニメアイドルマスターとアイドルマスターゼノグラシアの違いについてわかりやすく説明するのはむずかしいなぁ
(アニメアイドルマスターとアイドルマスターゼノグラシアは繋がりはないが)


Comment by 阿久津雅人 @ 2013/09/01 1:39 AM
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